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「ごめんねみんな、もうあたしそこで座っとくから楽しんできてよ」
なんだかいい加減面倒くさくなってきた。
だからあたし、ふっと顔を上げてにこやかにそう言って見せた。
「……何言ってるの、そんなのダメよ、」
制す言葉を掛けたのは亜子。
だけど他に良い案も浮かばないせいか頼りない声になる。
陽介が考えるように視線を逸らす。
その隣で爽太は何やらカバン代わりのビニール袋をごそごそまさぐっていて。
そうして何かを引っ張り出すとすこーしだけ気まずそうな声で。
「コレ着る?」
みんなが爽太を見た。
手に持っていたのは、Tシャツだった。
「レンタルした水着の上からコレ着れば良くね?」
みんなは目を見開いて爽太とそのTシャツを凝視する。
そん中不意に夏芽が思い切り爽太に飛び付いた。
「そーーた!あんた!」
「なにっ」
「やるじゃんっ!」
ぐわっと首に回された腕に顔を歪める爽太。
そんな彼にさっきとは打って変わって表情を明るくした亜子。
「でもそれ爽太の着替えじゃないの?」
「うん。3枚あるから」
「3枚?!持ってき過ぎでしょバーーッカ!」
「夏芽、感謝するとこだよ。バカじゃないでしょ」
「わーかってるよ、ったく洋紀は説教じみててやんなっちゃう」
「オレのその説教がなくなったら夏芽は真っ直ぐ育たないからね」
「はぁっ?!どーゆう意味よ!」
相変わらずの痴話喧嘩な二人に微笑んだり目をやったりする余裕が出来た亜子と陽介と、夏芽に肩を組まれているせいで巻き添えを喰らっている爽太の側で、あたしは、密かに頬を染めていた。
あたしは、知っていた。
爽太が着替えのシャツを3枚も持っている理由を。
あたしだけが。
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