コンプレックス

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小学校3年生の夏の頃だった。 爽太と出逢って二年目の夏の出来事。 その日、上地家から海へ遊びに行くお誘いを受けていたあたしと陽介。 爽太ママと、お姉ちゃんのさっちゃんと爽太とあたしと陽介と。 しかし当日陽介が熱を出してしまい4人で行くことに。 そしてその車の中で、あたしは重大なミスを犯したことに気付きおずおずと口にする。 水着を間違えて持ってきてしまった、と。 海に連れて行ってもらえると聞いたうちのママが、その翌日早速あたしのために水着を買ってきてくれた。 しかしソレは背中が大きく開いたデザイン。 気付いたママは直ぐに新しいのを買ってきた。 だからあたしは水着を二着持っていた。 そしてドジなあたしは、その背中が開いた方の水着を持ってきてしまっていたのだ。 車の中で、爽太が訊いた。 その水着じゃダメなの? あたしが答える。 これは背中が隠れないからダメなの。 当時もうすでにあたしの背中の傷を知っていた彼。 ピンときたように目を見張った。 運転席から声が降る。 「じゃあ取りに戻ろうか」 爽太のお母さん、ちいちゃんの声にふるふる首を振るあたし。 「あたし、うみに入らない」 「だめよーそんなの」 ほろほろと泣き出す。 そんなあたしにちいちゃんは言った。 「爽太のTシャツ、上から着たら?背中隠れるよ」 そのセリフにあたしは顔を上げる。 助手席からさっちゃん。 「爽太、帰り、どおするの?」 「爽太は男の子なんだから服なんて着なくたって平気よ、ね?」 「うん!あついから、はだかでもへーきだよ、おれ!」 しくしくしてるあたしを、爽太が横からぎゅってした。 「これからは、みこが、まちがえても、わすれてもいーように、おれ、3まいティーシャツもってくるようにするな!」 にこにこって笑う。 ちいちゃんが嬉しそうに声を上げた。 「お、爽太偉いね。さっすが男の子だね」 「うん、みこはおれがまもるんだ」 「爽太は美湖ちゃんのナイトだね」 ーーーそれから彼が本当にそれを実行していたのかは知らない。 だってあたしはもう二度と水着を間違えることも忘れてしまうこともしなかったから。 むしろそんなことがあったことさえ忘れてしまっていた。
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