コンプレックス

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「………みこ、あのでもせっかく」 「いらない爽太のなんか着たくない」 シンと静まり返った空気。 おずおずとこぼした夏芽の声を遮ったあたしのセリフ。我ながら酷。 もちろん爽太の顔なんて見れない。 「……じゃあオレも泳がない」 「ーっ?」 そんなひねくれたあたしの頭に降った声。 驚いて顔を上げた。 傷ついていると思っていたその表情はむしろあっけらかんとしていた。 「ちょ、爽太そんなヤケクソにっ」 「やけくそじゃねえよ?」 「あんたねっ、」 「てか帰るわ」 ちらりとも目線をこちらに向けない爽太に下唇を咬む。 「ちょっと用事思い出したからさー」 ー・・違った。 平気なんじゃなくて、呆れたんだ。 怒る気にもなれないんだ。 いや、怒れないんだ。 ここで自分もキレたら余計ヤな雰囲気になるから。 あたしと居るヒトはみんな人より少し大人びてしまう 人より気遣いがうまくなる それはあたしが、ガキだから 「気分悪ぃ」 それでもあたしは、甘えることを辞めることは出来なかった。 「あるっつってんだから借りりゃいいだろうが、何だだこねてんだよ全員が気分悪くなんだよ」 兄に怒られて、 「ちょ、陽介君言いすぎ!ほら、今二人ケンカ中なんだしさっ、仲が良いほどケンカするっつー、」 それを夏芽が遮って、 「関係ねえよ。何でオレらがそれに振り回されなきゃなんねえんだよ」 「それは友達なんだから仕方ないでしょー!」 「オレはコイツの友達じゃねえ」 「兄貴でしょうが!むしろあんたが一番理解しなきゃいけないんじゃないの!?」 「…でしゃばんなよ」 「ーーなんっ」 「いい加減にして」 次に亜子の一括が入り、 「口の利き方に気を付けなさいよ。そうやってアンタも凄むから余計に空気が悪くなるのは分かってるの?」 「………」 「まぁまぁまぁまぁ」 最後に洋紀が優しく仲裁に入って終わる。 「んじゃあさ、こうしよ。爽太のそのTシャツ、オレに、貸してよ。んで、オレのTシャツを美湖が着な?これならいいよね?」 「………ぅ、うん、」 「よし、オッケ!もう問題はなくなったね!さあ楽しもう!」 いつも誰かが誰かを取り成すから、そうして円の中でぐるぐる回って繰り返される。 誰かが何かを変えない限り、同じようにぐるぐる回る。 あたしたちの関係は変わらない。 あたしたちは、あたしは、そうしてずっと成長しない。 .
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