コンプレックス

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無我夢中で既に熟知しているお手洗いまで全力疾走したあたし。 しかし視界に飛び込んできた光景はなんとも無情だった。 行列・・・っっっ!!! ~~~だめぇっ、止まったらもれるぅぅ ーーダッ! あたしはその長蛇の列を泣く泣く通り越し、建物の裏側へ回りこんだ。 その場でガバッとうずくまる。 「ーー・・・ッッ」 神様仏様お願いします今すぐあたしのボウコウを大きくしてくださいぃぃ 「何してるの?」 「ーーヒッ!」 不意に掛けられた声に肩を上げた。 見開いた瞳に映った、うずくまる体を覆う大きな陰を凝視する。 「どうしたの?具合でも悪いの?」 同じ声でまた問いかけるその陰がぬっと近づく。開ききった瞳孔に、しぼんだ瞳が飛び込んできた。 「ーーーッッ!」 思わず身体をのけぞらせたあたしに、黄色い歯を覗かせてニンマリと笑ったその陰の主。 頬のコケた小柄なオジサンが笑顔であたしを凝視していた。 「気分悪いの?」 「ーーッ…ッ……!!」 顔面蒼白なあたしに構うことなく、オジサンはその痩せこけた腕を躊躇なく伸ばしてくる。 その手のひらが背中をさすったから、一気に総毛立ったのはいうまでもない。 手の甲や指まで長く濃い毛が生えたその手から逃れたくて、あたしは思わず四つん這った。 その背中にまた生暖かい手が添えられる。 「なんでシャツなんか着てるの?」 60代後半くらいに見えるオジサン。 少し小汚い感じ。 二マッと笑う顔がすごく気持ち悪くて。 「せっかくの可愛い水着、隠しちゃったらもったいないよ。脱ぎなよ」 「ひっーー」 その手がシャツの裾に触れた、その時 「何してんだよオッサン!」 そんな声が聞こえて、突然オジサンが横転した。 顔を上げるとそこには中学生くらいの男の子二人が眉間にしわを寄せてコケたオジサンを見下ろしていた。
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