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「…何泣かしてんの?」
耳元で低い声が響いた。
「ーーち、ちがっ…」
「おれらじゃねえよオッサンが…!」
直ぐ側にあるはずの声がなんだかとても遠くで聞こえた。
彼の体温があたしの拒否するもの全てを遮断してくれているようだった。
あたしは躊躇なくその胸にすがりつく。
ぼろぼろと泣けてきた。
どうしてだろう。
安心したんだ。
爽太が視界の中に在るだけであたしは、こんなにも涙するほど安堵する。
「こらおまえら何してんだ!」
不意に怒鳴り声が響いてまぶたを開いた。
いきなり侵入してきたその声に驚いて、そっと顔を上げて少しだけ横にずらしてみる。
高校生くらいの男の人が仁王立ちで少年たちを見下ろしていた。
ぱちっと瞬きをする。
ちらっと視線を動かすと、爽太の薄いまつげが見えた。
「居なくなったと思えばこんなとこで!ったくガキがいっちょ前にナンパなんかしてんじゃねえよ!サオリに言いつけっかんな!」
「げっ!ねえちゃんにだけは!ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」
さっと立ち上がった少年たちは青ざめた表情で仁王立ちの青年ににすがりつく。
青年はそんな2人の頭をぐりぐりしてる。
そして不意にこちらに視線を向けるとぺこりと頭を下げた。
「謝れ!おら!」
「…ごめんなさい」
「ごめんなさいでした」
不意に目が合って、思わずぱっと顔を背けたあたし。
直ぐに遠ざかる足音が聞こえて、そのうち消えた。
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