コンプレックス

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三人がいってしまうと、爽太はあたしを抱く腕の力を緩めた。 「美湖」 耳元で囁かれた声にハッとする。 トクントクンと脈打つ心臓の音に聞き入ってしまっていたあたし。 勢い余って爽太の身体を押しのけた。 「………」 座り込んだままうつむく。 少しだけ、頬に熱がこもっていること気付かれているだろうか。 「美湖、」 彼の呼ぶ声を無視する。 押し黙るあたしに伸びてくる腕が微かに視界に映った。 身体は強ばらせるけれど、心は少し期待した。 ーす、 そっと触れた指先に、背中がピクンの反応する。 あたしを覆うように目の前に膝を立てて座る彼は、ゆっくりと傷痕をなぞる。 眼前に広がる胸板に赤面した。 前に見た陽介と同じような、大きな胸だった。 しっかりしていて、おなかはあたしのぷにぷにしたのとは全然ちがってお肉なんかちっともついていなくて、 爽太は背は少しだけ小さめだけど、細い陽介に比べるとまだもう少しっかりして見える。 無意識に、震える手をその胸に伸ばしていた。 そっと触れた指先から体温が伝わってくる。 男の子、なんだなあ……… って、思った。 まだ中学生って言ったって、しっかり男の子してる。 女の子の方が発育が早いっていうけれど、男の子はどのくらいから成長し始めるんだろう。 あたしだって、少しだけ、胸が膨らんできたと思う。 「美湖、」 「ーー・・・ッ」 不意に覗き込まれた瞳に驚いて、よりいっそう顔を赤面させてしまった。 「……っ、…、」 「…美湖?」 「…っ、な、に……」 少しだけきょとんとさせてから、爽太はまた優しく背中を撫ぜた。 同じようにまたピクリと反応させる。 彼はそのままあたしを抱くようにして、耳元で小さく囁いた。 「…やっぱりまだ、気になるの?」 ーー・・。 それが背中の痕を指していることは直ぐに理解した。 けれど、その問いの意図は解らない。 「……気に、なるよ」 「…」 「だって、気持ち悪くない、わけが、ないでしょ、」 言った、瞬間 背中に触れた感触に、目を見開いた 「ーーそっ、………ッ」 彼が優しく、キスを落とした。 驚いたあたしは、腰に回る腕に爪を立てる。 「ーーーおっ!?」 その時だった。 不意に現れた人影と、その影からの驚きの声。 爽太が唇を離して振り向いた。 抱き合う二人を少し遠くから見下ろす大きな影は、さっきの青年だった。
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