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「美湖」 …………。 ふと目を開ける。 兄の無表情が、眼前に広がっていた。 「……ん、」 「部屋行け、風邪引く」 肩に置かれていた手の平が離れる。 腰を上げて立ち上がった陽介を見ながらあたしは、机に突っ伏していた頭をゆるりと持ち上げた。 「よーすけぇ」 時計を見る。 もう21時を回ってる。 お昼頃からリビングで寝てしまっていたあたしを、彼は起こしに来てくれたみたい。 冷蔵庫を開けてコップに麦茶を注ぐ兄に声を掛ける。 「ママとパパいないの?」 「父さんは昨日から出張。母さんは夕方から風呂屋行くって言ってたろ」 「……そか、」 「メシは」 「…食べる」 「自分であっためろ」 「陽介、」 「オレはもう食った」 こく、こくと動く喉をぼうっと見つめる。 「陽介、」 「風呂入ってくる」 「陽介」 「なに」 ふいと振り向いた瞳。 眉間に寄ったシワを見て、少し寂しくなった。 「……あたし携帯、陽介の部屋に置きっぱだった?」 この夏、あたしは頻繁に陽介の部屋に押し入っていた。 夜ひとりで眠るのがどうしても心細くて。 さすがにこの年になってあまりにもほぼ毎日のように来られると、いやがられた。 でもわがまま押し切った。 電気代の節約だとかちょっとイイ理由まで押し付けて。 朝、目が覚めると陽介は居なくなってる。 部活の朝練へ出掛けていくの。 「さあ」 「…そう。見てくる」 「………うん」 小さくそうこぼすと、陽介はふいとあたしに背を向ける。 その背中を少しだけ声を張って引き止めた。 「懐かしい夢みたよ」 パタリと冷蔵庫を閉じる。 「あたしはじめ爽太のこと嫌ってたよねえ」 今度はこちらに向き直る。 カウンターキッチンの流しにコップを置く。 「部屋に閉じ込められてあたし大泣きしてさあ。……懐かしいよねっ」 ふいと上げられた顔。 ドキリとする。 「そうだな」 「………」 緩く笑んだカオを見つめる。 次の言葉を探してる間に、陽介は視界からいなくなった。 パタンと音がして、彼がリビングから出ていったことを知った。
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