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ーやられた。
陽介の部屋のドアを開けた瞬間、あたしはとっさに心の中で、そう呟いた。
視界に広がる六畳半の部屋の真ん中に、漫画を手にポツンと座り込む少年がひとり。
ドアノブを握りしめたまま硬直するあたしを、彼も同じようにピクリともせずに凝視している。
……陽介、どうして言ってくれなかったの。
爽太がいるよ、って。
「……どうかしたか?」
苦しい沈黙を破ったのは爽太だった。
軽い笑みを見せて尋ねてくれる。
大人だなと思う。
プールへ行ってから初めて会う。
10日ぶりくらいかな。
ケンカ別れだった。
あの後爽太は一度もあたしを見なかった。
それなのに今、笑みを作ってくれてる。
彼は大人だ。
反してあたしはガキだった。
その彼の気遣いに腹立った。
作られた笑みに苛立った。
もうずっと遠い昔の記憶のような気のする、あの屈託のない溢れ出したような笑みじゃないことに、胸をかき乱された。
きっとそっぽを向かれていたって機嫌を損ねていただろうに。
受けるイタミは違えども。
「………」
爽太の言葉をムシして、あたしはデカい態度で室内に足を踏み入れた。
そんなあたしを彼は目で追う。
まずは、お昼まで占領していたベッド。
掛け布団をばさ、と捲り上げる。
………ない。
あるとしたらここだと思った。
周りをキョロリ。
勉強机の上、もない。
爽太の後ろを通って、今度はソファー。
クッションを持ち上げてみても、愛用の携帯電話の姿は見あたらなかった。
下唇を噛み締める。
そんなあたしに、控え目な声。
「さがしもの?」
「……」
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