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ゴメン、ミコ 声が聞こえた。 爽太の声だ。 ゴメンミコ? なぁにそれ? 「ーー美湖っ、」 彼が電話を切った動作も、 同時に直ぐにあたしを振り向いたこと、 そうしてハッとしたように目を見張って、 腰を降ろしてたベッドから立ち上がってあたしの元へきたこと、 全部視界の端に映っていた、けれど 直視できない 辛くて見れない 「ーーわかった、」 爽太の声。 胸の前で握り締めてた両手を暖かい手のひらが覆って、ほどかれる。 「美湖が何を嫌がってるのか、やっと解った」 左手の爪が強く食い込んでいた右手の甲が、ジンと痛みを発す。 その右手を彼は優しく両の掌で包んだ。 傷をいたわるように。 「美湖が嫌なら明日の約束断る」 言った彼を見上げて、あたしは言う。 「…そんなこと、誰も言ってないじゃんっ」 さも気に入らないっていうカオをして、 そんなあたしに彼は引き下がることはなく、 「じゃあ何に怒ってんの?」 「怒ってないじゃんっ」 「血ぃ出てる!」 不意に右手をバッと目の前にかざされる。 食い込んだ左手の爪は甲の皮膚を引き裂いてた。 「情緒不安定な時の癖だろ」 「ーべつに、違うよっ!」 「やっぱオレ美湖がいないとムリだ!」 「ーー・・っ!」 どうして、そんな、捨てられた子犬のような瞳をしてるの どうしてアナタはそんなにもあたしに依存するの、 「だから美湖がイヤなら別に岩下のことも諦めるし、」 眉間にシワを寄せる彼を凝視する。 ふるふると唇が震える。 口を開きたくなかった。 彼を傷付ける言葉しか出ないと思った。 だけど、 このまま抱き締めることも出来ないと思った。 この時ばかりは、プライドなんかじゃなかった。 何かがおかしいと、 このままだったら何かがいけないと、 本能で感じ取っていた。
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