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夏の間に彼は背が伸びたかも知れない
向かい合って立つあたしたちの身長差が、少し開いた気がする。
そんなことが、あたしの心細さをまたいっそう駆り立てるのね。
「……別に協力なんて、」
声を出したあたしを彼が不安そうに見る。
「正直あたし何もしてないし、」
「そんなこと、」
「それどころか逆にこっちの心配されちゃうしね。洋紀が好きなのか、だっけ。笑っちゃう。どうしてそう思ったの?」
「…それは、」
「適当に言ったんでしょ。美湖が機嫌悪い、なんか話すことないかな、そーだ、美湖にも好きな相手が出来ればいーな、そうしてお互い協力し合って、」
「ごめん、悪かったよ」
「爽太があたしのことよく解ってるのと同じように、あたしも爽太の考えてることくらいお見通しなんだよ」
「うん、ごめん。洋紀にだって、失礼なことだった」
少し落ち着いたら、悲しくなってきた。
そして嫌な想いが過ぎってくる。
洋紀に告白されたことを思い出して、
爽太はそれを知ってるのかな、
知ったら不安にとかなってくれるのかな、とか
そんなことを考えてる自分にすごく、すっごく、嫌気がさして、みにくくて、
もうどうしようもなく哀しくなった。
「…そもそも、なんで協力なんて頼んだの?」
ポツリ
零れたセリフと口調、声色、
全てにヤバいと思った。
爽太も悲しそうな表情を見せる。
「めちゃめちゃ仲良しだし、めちゃめちゃいい感じじゃんっ」
「…そんなことないから、」
「そんなこと言ってさっ?明日も遊びに行くんでしょ?」
「別に遊ぶくらい普通だろっ?」
「何すましてんのっ?正直自分でも両思いかもって思ってるんでしょっ?」
「思ってない、」
「思ってる!さっさと告ってそんであたしへの依存から抜け出しなよ!」
ーードンッ!!!
目を見開く。
瞳から大粒の涙がポロポロ零れてた。
壁を殴った爽太の左拳が微かに震えてた。
いつかの月夜を思い出す。
満月の下で泣いていた左手の平。
幾つもの赤い涙の粒を地面に落としてた。
彼は涙をこぼさない。
その苦しげに見据える瞳からは、決して。
「……お前はオレに、どうして欲しいんだよ…!」
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