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この頃のあたしに、どうか解って欲しい
どれだけ彼を傷付けたのか
どれだけ己が愚かだったか
そうして気づいたなら、早く、少しでも早く、彼を抱き締めて。
力いっぱいに抱き締めて。
あなたがどれだけ精一杯に締め付けたとしても、彼に傷は微々たりともつかないから。
「………ごめんな、爽太」
いつの間にか、陽介がそばにいた
向かい合うあたしたちの横に立って、彼は爽太を見つめながら言う。
ふいにふわりと頭に手のひらが置かれて
「…オレにだって、手に負えないから」
表情は変えなかったと思う。
だけど実は、心臓の鼓動が速まったこと、きっと二人は気付いていないかな。
「迷惑かけた、ごめん」
爽太はふっと笑う。
「……別にオレは、……好きでやってたんだ…」
「……」
「………でも、…」
後に続かない彼の言葉を、陽介は汲み取ったように一度ゆっくりとまばたきをした。
「…コイツは誰の手にも余る」
・・・・。
あたしはお荷物なんだよね。
きっと本当は気付いていたけど、知らないふりしてた。
「まぁ、そろそろ帰るわ」
ポツリとこぼされた爽太の声。
「うん。…最後の1日、楽しめよ」
「あー、さんきゅ」
彼等は軽く笑顔を交わして、そして爽太はこの部屋をあとにする。
陽介の手のひらはもうとっくにあたしの頭なんかにはない。
「ん」
不意に陽介はそばの勉強机に、ピンク色の携帯電話を置いた。
そしてそのまま何もなかったようにベッドに身体を倒す。
やられた、
彼が持っていたんだ。
多分、あたしを起こしに来てくれたときに、一緒に持ってたんだ。
彼はポーカーフェイスで平気で嘘を吐く。
何も言わずにソレを手に取った。
止まっていたはずの涙が、また静かに頬を伝った。
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