八つ当たり

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ーーぽん かちゃ、と椅子を鳴らして立ち上がった森ちゃんが、すれ違う手前であたしの頭に手を置いた。 「まあこれを機会におまえらも仲直りしろや」 ………。 担任だから、そりゃあ気になってるだろうし 校内でもある程度の話題にはのぼってて、担任の森ちゃんは多分少しばかりは頭を悩ませてるに違いない。 有名人ってホント大変。 あたしは、はた迷惑ってやつ。 「タイミング逃すと一生仲直りできなくなるぞ。わかったな」 わしゃわしゃ 乱れた髪の毛に手を伸ばす。 手を離して森ちゃんはすっと職員室を後にした。 森ちゃんは理科の先生。 一限は隣の2クラスが実験の授業だから、白衣なんか着ちゃって、カッコつけやろー。 「上地君、飯島さん」 ため息を吐いてきびすを返そうとしたあたしたちに声をかけてきたのは、どこのクラスの先生だっけ、 「ケンカ中だってー? いつもラブラブの二人が珍しいね、どうしちゃったの~?」 「ほんとだ、先生が話きいてやろうかっ?」 なんかぞろぞろと集まってくる。 「あ、いいんですか~先生たち、森崎先生に構わないでやってって釘刺されてるのに~」 「だってやっぱりねぇ、気になるじゃないですか」 「そうですよ担任じゃないと言ったってこの子たちも大切な私たちの生徒なんですから」 きっとあたしたちが森ちゃんに注意を受けている間も会話に聞き耳を立てていたに違いない。 立派なダンボの耳にして。 「別に仲良しっすよー」 こんなとき、むすっと俯くあたしとは正反対ににっこりスマイルを向けるのが爽太だ。 「オレは変わらず美湖一筋っすよ」 ふわっと後ろから抱いた爽太にかっと目をむくと、彼はあたしが叫ぶ前に手を引いた。 「じゃっ、失礼しまーす」 愛想良く、手を振る。 だから好かれるし だからモテるし だから有名になるし だからあたしが迷惑する。 そんな彼にいつも守られているのは事実だけど、そもそもそんな彼じゃなければあたしは守られるようなことにもならないはずなのに。
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