八つ当たり

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「そ、そうだね、ごめんね。……爽太君、先生大丈夫だった?」 ふわ、とぎこちない笑顔を作った智乃が気を取り直したようにそう言った。 爽太は何もなかったように笑う。 「あ、うん。2週間掃除しろだって、勘弁ねえや」 ふと智乃の視線が逸れた。それが二人の手元にあることに気付く。 ぱっと手を払ったあたしを爽太が軽く振り向いた。 あたしは見ない。 「大変だね、二週間も。私も暇だし手伝うよ」 「や、平気。岩下職員室行くの?森ちゃんならもう出てったけど?」 「あ、そうなんだ、ありがとう。取りあえずこの書類机に置いてくるね」 茶封筒を持った手を少し上げて軽く微笑む。 そのままあたしの横をすり抜けて階段を降りていった。 ーーグイッ 「ーーぁっ」 無表情にしていたあたしの腕を急に爽太はひっつかむようにしてとった。ハッとして合わさった瞳は軽く睨むように見えた。 そしてそのまま引いて歩き出す。 別にあのまま見せつけるようにして大人しく触れられていても良かったんだ。 なのになんで思わず振り払っちゃったのかな。 二年生の教室がある三階にたどり着く。 一番奥の1クラスへの途中で、2クラスの扉から見知った顔がひょっこりと出てきた。 洋紀だ。 「あーー爽太、美湖」 瞬間ゆるんだ爽太の手と同時に、あたしは再びそれを振り払って洋紀へと走り寄った。 「おはよおーーっ」 「はいはいおはよう美湖」 ぽんぽんと頭を撫でてくれる優しい手とその笑顔に思わず顔がほころぶ。 それを見た爽太はふてくされたように1組の教室へ消えていった。 「いじわるだね美湖も」 「なんだかイライラするんだもん、」 「八つ当たりじゃん」 ふ、と笑った洋紀から離れ、手も振らずにあたしは爽太のあとをゆっくりと歩いた。
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