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――ドンッ
「キャッ」
「!」
不意に、衝撃に身体が弾んだ。
涙を隠すように顔を伏せて走っていたため、廊下で人にぶつかってしまったのだ。
「ッすいませ…」
慌てて謝り、泣いてることがバレないうちにまた走る。
・・恥ずかしい
何してるんだろう、あたし
教室について自分の席の前に着くと、机の上に置いてあったスクールバッグに手をつく。
乱れた呼吸を整えて、涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭う。
「美湖?」
ふいに名前を呼ばれてハッとなる。
「…陽介」
そこには窓からこちらを覗いてる双子の兄の姿があった。
彼はゆっくりと教室に入って来る。
「…おまえなに泣いてん」
――ギュウ‥
あたしは、精一杯の力で陽介に抱き着いた。
「――…」
少しの間の後に、陽介の掌が背中をぽんぽんと叩く。
「よ…すけ……」
「ん」
あったかい。
愛しい人とはまた違った暖かさ。
家族の温もり。
「も…やだ…」
「うん」
あたしの1番の理解者。
「ど、していっか…わか、な…」
「そんなもんだよ」
いつもと変わらない落ち着いた声が耳に届いて、 自然に肩の力が抜ける。
「あたしっ…」
「分かってるから。落ち着け」
もう何も喋るなと、妹の顔を彼はその胸に押し付けた。
優しい声と優しい掌に癒され、いつの間に か、涙は引いていた‥。
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