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明日死ぬとしたら何する──?
中学三年の頃、そんな話題で盛り上がったことがある。当時の僕はなんと答えたのか。その時の幼馴染みの答えが衝撃的すぎて、僕は自分のを思い出せない。どう頭の中をほじくり返しても、出てくるのそのは彼女の答えばかりなのだ。中三の僕にとって、死というものがあまりに縁遠かったせいもあるのだろうが、こうまで思い出せないという事は、僕はよほど適当なことを言ったのだろう。もしかしたら、笑いを取りにいって酷くスベったのかもしれない。だから、そのいたたまれなさを思い出せぬように心が作用しているのかも。防衛機制とかいうやつだ。
どうにもこうにも、本当に思い出せない。当時の僕はなんと答えたのか。思い出せない。
彼女のことは鮮明に覚えているのに……。
髪はまだ長かった。肩より下へすらりと伸びるみどりの黒髪。鈴を張ったような目が僕を見ていた。
そして、桜色のぷっくりした可愛らしい唇で、その幼なじみは言ったものだ。
「ずっと好きだった人に告白する」と。
衝撃だった。幼馴染みに意中の相手がいる事もそうだが、何より、そう言う彼女がどうしてか僕を見つめていることが何より衝撃だった。
これで勘違いしない男がいるだろうか。どんな聖人君子でも、僕と同じく内をかき乱されたはずだ。そのセリフの中で、何故自分が見つめられているのか。もしかして──と。
もう一目惚れだった。小さい頃からずっと一緒にいたのに可笑しな話なのだけど、この瞬間に僕はコロリと彼女に落ちたのだ。異性だなんて思ったことがないくらい身近だった彼女が、急に遠くに行った気がした。いや、不意をつかれた僕が一瞬立ち止まっただけか。そのせいで距離ができたのかもしれない。
引いて見た彼女は、すごく魅力的な女の子で。今まで気にもしなかった自分が、急に信じられなくなった。
それから二年。僕はずっと彼女が好きなままだ。告白はしていない。想いを告げてしまえば、これまで積み上げてきた関係が崩れてしまいそうで。いや、言い訳だな。単にふられるのが怖かったんだ。想いをしたためた恋文も、結局渡す勇気は出なかった。その想いを捨てることもできず、それは今なお僕の机の中。
そんないい加減が、今日という日を招いてしまったのかもしれない──。
就寝のちょっと手前、自分のベッドに転がって携帯電話を握りしめ、僕はそんな答えに行き着いていた。
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