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しかし、僕の表情を認めるや、たちまち彼女は眉根を寄せた。「どうしたの?」と。
「頭ボサボサで、なんか顔色すごいよ」
「お陰様でな」
伝わらないであろう皮肉を投げて、彼女に応じてみる。
案の定、返ってきたのはきょとんとした顔だった。
「んー……。ま、とりあえずさ。シャワー浴びてきたら? ほんと、今の幸太すごい顔になってるから」
そうか? ……そうだろうな。本日鏡は覗いてないけど、何となくそうなんじゃないかと体の感じで分かる。
美羽に促されるまま風呂場に行けば、なるほど、酷い有り様をしている僕がいた。
× × ×
「で、美羽は何しにきたんだ?」
風呂を出て少し、幾分かは整った頭で僕は美羽に問うた。
リビングルームのソファで我が家のように寛ぐ今日の彼女は、どことなくはしゃいで見えた。スキニージーンズに包まれた脚線美が、交互にパタパタと揺れている。
お母さんが元女優なんだっけ。そのスタイルの良さは、母譲りなのかもしれない。
「え、さっき言ったじゃん。遊びに来たって」
「いや、それは聞いたけど。お前がうちに来るのって最近無かったろ? なんで急にってこと。そりゃ、昔はしょっちゅう来てたけどさ」
ショートヘアにする少し前あたりから、美羽は僕の家に来なくなった。あれも中三くらいだったかな。だから、彼女がこの家の敷居を跨いだのはかなり久しぶりの事だった。
僕が言えば、美羽ははしゃいだ様子を引っ込めて、思案の色をその身に纏った。
「んー、とね……。何となく。何となくなんだけど、今日ここに来ないといけないような、そんな気がしてさ。虫の知らせってやつ?」
あ、ごめん。不謹慎だね。
ちょっとしゅんとなって、頭を下げる。
「いや、いいけど」
そんな顔しないでくれ。せめて、今くらいは。
──今夜、おまえはあんな日記を書くんだぞ。僕の訃報を。ずっと好きだった男の子が死んだって。
……ん?
脳裏に再び美羽の日記を思い出して、はっと僕の心の目が開いた。
「なあ、美羽」
呼びかける。すると美羽は不思議そうに僕を見返した。
書かれた記事から現実を逸らせば、予言の運命からも脱することができるのではないか。件の文章を反芻し、そんなことを考えついた。蔑まれても構わない。
誰だって、死にたくはないだろう? だから、
「好きだ」
「……はあ?」
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