嘘と告白のjuvenile

7/11
前へ
/11ページ
次へ
 日記にはこうあった。『ずっと好きだった男の子』と。そのニュアンスは、片思いの節が強い。だったら、そこを覆せば──。 「付き合って欲しい。僕と」  思いついた唯一の生る術を僕は吐いた。真剣な顔で、真っ直ぐに柏木美羽の視線を掴んで。心はこれっぽっちもときめいてないけれど、必死さだけはおそらく告白のそれで。  言われた美羽は変な声を一瞬出すと、魔法をかけられたみたいにぴたりと止まった。  当たり前だろう。雰囲気もへったくれもない。  重ねて言えば、決意のベクトルも違う方を向いている。確かに僕は美羽が好きだ。でも今のこれは、本当じゃない。タイミングが違う。ある種、嘘の告白。  頭の奥が妙に冷めているのがいい証拠だ。延髄に保冷剤が紛れ込んだみたいに、体の芯が凍てついている。悪魔に堕ちたような気分。  秒瞬あって、美羽の唇が蠢いた。漏れた小声が、漣のように宙をさすらう。「エープリルフール……?」と。  あまりに小さくて、僕は最初その言葉を拾いきれなかった。しかし、次にもう一度美羽が宣った時、状況の全てを理解した。 「エープリルフールでしょ!」  真夏の向日葵みたいな笑顔で、美羽は得意げに僕を指差したのだ。 「あぶねー。騙されるところだったよ。まああれだね。ネタとしてはベタだよね。ブラックメール的な?」  ニシシと白い歯が覗く。してやったりのその表情が、僕の告白を奈落へ放り込む。 「おい。ちょっと待ってくれ! マジだって。僕は本気で──」  させない。抗う。落ちていく告白を引っぱり出し、もう一度美羽に叩きつけようと、僕は声を張った。 「嘘ウソ。騙されないってそう言うの。やるならもうちょっと旨いの考えないと」  でも、そんなものはあっさりと砕かれて。何度本気だと訴えても、美羽は何一つ信じてくれなかった。 「ま、仮に、もしもだけど、本当に嘘じゃなくて、幸太が本当にそれを伝えたいなら、絶対に嘘にできない方法でやれば、それは揺るがない真実になるんじゃないのかな」  気づけば、そんな問題まで寄越される始末。 「嘘にできない方法?」  考えが及びもつかない提案に僕が問うと、美羽は「んー」と唸ってのち「例えば」と、ソファから立ち上がった。そして、 「私は今、全裸です」  両腕を広げ、何故か力強く宣言された。しかし、自慢げに仁王立ちする彼女は、確かにお洒落な服を着ている。裸の王様では決してない。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加