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日記にはこうあった。『ずっと好きだった男の子』と。そのニュアンスは、片思いの節が強い。だったら、そこを覆せば──。
「付き合って欲しい。僕と」
思いついた唯一の生る術を僕は吐いた。真剣な顔で、真っ直ぐに柏木美羽の視線を掴んで。心はこれっぽっちもときめいてないけれど、必死さだけはおそらく告白のそれで。
言われた美羽は変な声を一瞬出すと、魔法をかけられたみたいにぴたりと止まった。
当たり前だろう。雰囲気もへったくれもない。
重ねて言えば、決意のベクトルも違う方を向いている。確かに僕は美羽が好きだ。でも今のこれは、本当じゃない。タイミングが違う。ある種、嘘の告白。
頭の奥が妙に冷めているのがいい証拠だ。延髄に保冷剤が紛れ込んだみたいに、体の芯が凍てついている。悪魔に堕ちたような気分。
秒瞬あって、美羽の唇が蠢いた。漏れた小声が、漣のように宙をさすらう。「エープリルフール……?」と。
あまりに小さくて、僕は最初その言葉を拾いきれなかった。しかし、次にもう一度美羽が宣った時、状況の全てを理解した。
「エープリルフールでしょ!」
真夏の向日葵みたいな笑顔で、美羽は得意げに僕を指差したのだ。
「あぶねー。騙されるところだったよ。まああれだね。ネタとしてはベタだよね。ブラックメール的な?」
ニシシと白い歯が覗く。してやったりのその表情が、僕の告白を奈落へ放り込む。
「おい。ちょっと待ってくれ! マジだって。僕は本気で──」
させない。抗う。落ちていく告白を引っぱり出し、もう一度美羽に叩きつけようと、僕は声を張った。
「嘘ウソ。騙されないってそう言うの。やるならもうちょっと旨いの考えないと」
でも、そんなものはあっさりと砕かれて。何度本気だと訴えても、美羽は何一つ信じてくれなかった。
「ま、仮に、もしもだけど、本当に嘘じゃなくて、幸太が本当にそれを伝えたいなら、絶対に嘘にできない方法でやれば、それは揺るがない真実になるんじゃないのかな」
気づけば、そんな問題まで寄越される始末。
「嘘にできない方法?」
考えが及びもつかない提案に僕が問うと、美羽は「んー」と唸ってのち「例えば」と、ソファから立ち上がった。そして、
「私は今、全裸です」
両腕を広げ、何故か力強く宣言された。しかし、自慢げに仁王立ちする彼女は、確かにお洒落な服を着ている。裸の王様では決してない。
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