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三年前のロウリア。分身の驚異はまだそれほどなく、平和な日々が続いていた。
このときはまだお城に住んでおらず、私の家はロウリアの一等地にある豪邸だった。
「おはよう、お母さん」
私はいつものように部屋から出てリビングに向かい、朝の挨拶をする。
見慣れた豪華な装飾。テーブルや椅子、棚、輝かしいそれらの中で、お母さんは毎朝お茶を飲む。
今日もそれに変わりなく、カップに口をつけていた彼女は、私を見てにこりと笑った。
「おはよう。よく眠れました?」
丁寧な口調に、柔らかな振る舞い。お母さんはいかにもな貴族の女性であった。
私と同じ、長く黒い髪。顔立ちは私と似ており、二十は歳の差があるのに、私と姉妹に間違われるほど若く見える。
でもそれは間違いでもないと思う。お互いの人柄か、私とお母さんは本当の姉妹のように仲が良いのだ。二十歳を過ぎても、毎朝挨拶をしているくらいに。
「ええ。今日もぐっすり眠れたわ」
紅茶の香りを感じつつ、私はテーブルに近づいて適当な椅子に座る。
「そう。お母さんは嬉しいです」
そう言って、お母さんは置いてあった空のカップを自分の前に移動。紅茶のティーポットを持ち、注ぎはじめた。
優雅に美しく、ティーポッドを傾ける。
「……あら」
――けれども、いかんせん注ぐ位置が高い過ぎた。
勢いよくテーブルのクロスに紅茶を注いでいくお母さん。
あらあら。
「お母さん、もっと低い位置でやるのはどう?」
「うーん……けど、こうした方がかっこよくないですか?」
真面目な口調で、笑顔を浮かべながら尋ねるお母さん。私もだけど、現在進行形で紅茶を布に吸収させているお母さんは、まったく焦っていなかった。
湯気を立ててる紅茶がお母さんの膝にかかっても、彼女は声すら上げずにティーポットの位置を調整し続ける。
のんびり、天然、などと言われる私から見てもお母さんのマイペース具合は凄まじい。
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