四章:これまでこれから

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           三年前のロウリア。分身の驚異はまだそれほどなく、平和な日々が続いていた。    このときはまだお城に住んでおらず、私の家はロウリアの一等地にある豪邸だった。   「おはよう、お母さん」    私はいつものように部屋から出てリビングに向かい、朝の挨拶をする。    見慣れた豪華な装飾。テーブルや椅子、棚、輝かしいそれらの中で、お母さんは毎朝お茶を飲む。    今日もそれに変わりなく、カップに口をつけていた彼女は、私を見てにこりと笑った。   「おはよう。よく眠れました?」    丁寧な口調に、柔らかな振る舞い。お母さんはいかにもな貴族の女性であった。    私と同じ、長く黒い髪。顔立ちは私と似ており、二十は歳の差があるのに、私と姉妹に間違われるほど若く見える。    でもそれは間違いでもないと思う。お互いの人柄か、私とお母さんは本当の姉妹のように仲が良いのだ。二十歳を過ぎても、毎朝挨拶をしているくらいに。   「ええ。今日もぐっすり眠れたわ」    紅茶の香りを感じつつ、私はテーブルに近づいて適当な椅子に座る。   「そう。お母さんは嬉しいです」    そう言って、お母さんは置いてあった空のカップを自分の前に移動。紅茶のティーポットを持ち、注ぎはじめた。    優雅に美しく、ティーポッドを傾ける。   「……あら」    ――けれども、いかんせん注ぐ位置が高い過ぎた。    勢いよくテーブルのクロスに紅茶を注いでいくお母さん。    あらあら。   「お母さん、もっと低い位置でやるのはどう?」   「うーん……けど、こうした方がかっこよくないですか?」    真面目な口調で、笑顔を浮かべながら尋ねるお母さん。私もだけど、現在進行形で紅茶を布に吸収させているお母さんは、まったく焦っていなかった。    湯気を立ててる紅茶がお母さんの膝にかかっても、彼女は声すら上げずにティーポットの位置を調整し続ける。    のんびり、天然、などと言われる私から見てもお母さんのマイペース具合は凄まじい。  
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