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「まあ、焦るな。綾瀬がやろうとしてることもわかるから」
「……はい」
上原くんは病むような男には到底みえないけれど。
……私を脅迫するような男だし。
「上原の教育係は確かに綾瀬だけど、あんま一人でしょいこむなよ?俺もフォローするしさ」
「日比谷さん……ありがとうございます」
会社でこんなにやさしい言葉をかけてくれるひとは少ない。
私は少しうるっときた。
「上原も綾瀬みたいにできる後輩になるといいな」
「ふふ、私もまだまだですよ」
「そんなこというなよ。綾瀬は俺が育てたんだから」
日比谷さんはニカッと笑った。
一年目のとき、私のOJTは日比谷さんだった。
気さくでやさしくて。
私と正反対だ。
「久々に綾瀬と話したな。飲み会の時は上原につきっきりだったし」
「あ、あれは、その……」
酔っ払っている姿を見られていたと思うと恥ずかしくなる。
「彼氏と別れたんだ?」
「あ、は、はい……」
穴があれば入りたいくらいだ。
「ふーん」
日比谷さんはそう言って、次の作業に取り掛かった。
私は憧れのひとに痴態を見せていたことにショックが隠せなかった。
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