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「ふふっ、しかも吉野さんと行くんでしょ?」
興奮のあまり、私の口は滑らかになっていた。
「あ、ごめんね。誘わなくて……」
申し訳なさそうに言う彼の姿。
「全然!楽しんできてね♪」
私は浮かれて、端末のロックを解除した。
葵くんは何か言いたそうだけれど、気にしなかった。
――――
「今日、なんかいいことあったの?」
電話越しに聞こえる上原くんの声。
「うん、葵くんが吉野み……吉野さんと温泉旅行行くんだって。しかも、橘くんがいないの!これってチャンスよね?」
私はまるで女子高校生のように話した。
上原くんは話す隙を与えない私の話を、相槌を打つ。
「ショーコ、すごく嬉しそうだね」
「そうね、だって葵くんの落ち込む姿みたくないし」
彼はクスッと笑った。
「……実は、もっと落ち込ませちゃうんだけどね」
「え?」
よく聞き取れなくて、再度聞き直す。
「いや、葵さんもいい同期がいるなって」
彼は笑いながら、話題を変えた。
その時、上原くんが何か企んでいたことに気付くことはできなかった。
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