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お手洗いから戻ると葵くんがいなくなっていた。
「あちらの先輩が連れてってしまいました」
視線の先をみると、同期の南くんがいた。
葵くんが口をパクパクして、ごめん、と言っている。
はあ。
「私だけで平気?さみしくない?」
他の人も交えて話そうよ、と暗に言う。
「俺、綾瀬さんと話したいからちょうどいいです」
残念なことに上原くんは嬉しそうに言うから、私はありきたりの質問を必死に考えて、彼のご機嫌とりをした。
「ねえ、綾瀬さん。どこかで泣きました?」
「え?な、泣いてないわ」
どきっとした。
さっき、別れた男を思い出して泣いたのがばれるなんて後輩にバラしたくなかった。
「本当ですか?ほら、マスカラが落ちてますよ」
「え、嘘。ちゃんと直したはずなのに」
「うそ」
上原くんは口角を上げた。
「かわいいな、綾瀬さん。簡単に引っ掛かるんだもの」
「だ、騙したわね」
「ねえ、どうして泣いていたんですか?」
上原くんの目が私を捕らえる。
「話してもらえませんか?」
彼の声はどこか懐かしくて、つい私は口を開いてしまった。
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