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時は平安初期。
人々が娯楽を楽しみ、
和歌を唄い暮らしていた頃。
一見なんの苦すらないように見えたこの都。
それはただの表の世界。
「振り返ってはいけない。」
夜の闇へと足を延ばそうとすれば、口癖のように聞こえてくる人々の声。
そう。
振り返ってはいけない。
なぜ?
そんなこと、
聞かなくても分かるでしょう?
鬼がいるから。
闇に溶け込んでいるかのような、
満月の夜に咲く花の如く、
美しい鬼。
その鬼が着ている着物には袖から裾にかけて名もない漆黒の花が描かれているという。
しかし、誰もその暗闇の花を見たものはいないというのだ。
見たのは月の明かりに照らされて真っ赤に染まった着物と、
形のよい唇から流れた人間の血。
鬼を見てはいけない。
喰われてしまうから。
紫鬼蓮を見てはいけない。
心を喰われてしまうから。
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