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西暦2012年、7月1日。
夏特有の蒸し暑い風を感じながら間宮奏〔まみやかなで〕は人気も少ない一見無人にも思える田舎町で色鮮やかな花を眺めていた。
この街には数少ない唯一の若者ともいえる。
色素の薄い茶色のショートヘア。
165センチの身長に華奢な体つき。
〔男っぽい〕
田舎町で育ったあたしが、高校卒業とともにここから出ていった都会にいる友人と顔を合わせれば二言目には告げられる言葉は最初こそ不快だったものの、自然とあたしに定着していった。
小さい頃からあたしの隣で花を売る母の姿を見つめていたあたしは19歳になった今、当たり前のように母と同じカウンターに立っている。
「あっつ~……………。」
半袖のTシャツを肩まで捲り上げカウンターの上に乗っていたうちわでパタパタと仰いでみるものの、効果は無いに等しい。
「またダラダラして!!!もっとシャンとしなさい。」
後ろにある自分の家へと繋がる戸が開く音にチラッと視線を向ければ同時に聞こえてきたのは自分とよく似た声をした、昔よりも目尻の皺が濃くなったお母さんの姿。
「仕方ないじゃん……。暑いんだから。」
「暑くても我慢しなさい。物を売る立場の人間がダラダラしてて、物が売れるとでも思ってるの?」
「なら、売れなくたっていいじゃん。」
「そういう問題じゃないでしょう?」
あたしが何を言っても、表情を変えないお母さんにやっぱり花を売る人は落ち着きがあるんだと実感させられる。
それとともに自分の今の姿に、本当にお母さんの子供なのだろうかとも思う。
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