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「今日は夜に配達があるんだから、それまでに花の手入れ済ませておくのよ?」
「は……………?」
お母さんの姿に嫌気が差してフイと視線を逸らしたあたしを気にするわけでもなく、バケツに組んだ水を店の前に撒きながら淡々と言う。
「何で夜なの………?」
「お客様の要望よ。昼間は忙しいから夜に届けてほしいって。」
「あたしが行くの?」
「もちろんよ。そのうちはこの店を継いでもらわなきゃいけないんだから。」
呆れてため息が出る。
言ってはいけないのかもしれないけど、迷惑な客だと思わずにはいられない。
客を優先しなきゃいけない気持ちは分かるけど閉店時間も過ぎ、やっと休めるという時になんでまだ働かなきゃいけないのよ。
まだ会ってもいない客に苛立ちを覚える。
「どこに配達するの……。」
「紫鬼山〔シキザン〕にある神社まで。」
「はぁ~!?」
思わず声を張り上げたあたしに、口が悪いと一言たしなめてからまた水を撒く。
紫鬼山。
この田舎町と隣にある市の丁度境界線ともいえる大きくそびえ立つ山。
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