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…………
…「逃げて…」
…………
………「早く」
ハァハァハァ…
いつもと同じ時間に俺は目を覚ます。
寝巻きを汗でぐっしょりとぬらして、軽い息切れを感じながら。
「また……か」
誰もいない部屋の中で俺の呟きを聞いていたのは暗闇だけだ。
全てを飲み込んでしまうような混沌とした空間だけ。
軽い気だるさを覚えながら重たい目を擦りながらまだ眠った体を無理矢理起こしベッドから降りる。
部屋にこもった熱気を含んだスリッパ履いてその体を引きずりながら無機質な音を立てる冷蔵庫から冷たい水を取り出す。
冷蔵庫の光は暗闇だった部屋を明るく照らし出す。
冷蔵庫から取り出したキンキンに冷えた飲みかけのいろはすの緑のキャップをあけるとそれを一気に飲み干した。
その冷たい水は喉を通り胃袋へと流れ込む。
その冷たさは徐々に火照った体を落ち着かせる。
その体でバルコニーへと向かった。
湿気を孕んだ風が身体に纏わりついてくる。
それは間違っても心地よい、などと形容されるものではない。
ポケットからタバコを取り出し火をつける。
真っ暗なバルコニーを小さな光が照らす。
ゆっくりと煙とともに胸の奥の重たい嫌悪感を吐き出した。
「今日も連絡は無しか…」
ポケットから取り出したスマートフォンを見つめながら呟く。
スマートフォンの液晶が汗でぐっしょりと髪が額にへばりついた顔を照らし出す。
その顔はどこか寂しげで遠い昔でも思い出しているかの様な顔だった。
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