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4月1日。
リビングのカレンダーに、ふと視線を向けた。
なぁんだ、今日はエイプリルフールじゃん!
もぉ、焦って損した~。
こっそり胸を撫で下ろして、年齢よりはちょっぴり若く見える両親に笑い掛けた。
「やだな~。今の時期にいきなり転勤が決まっただなんて、騙されるワケないじゃん。それってもっと早くに決まるもんでしょ?それともヘマやらかして左遷されたとか?」
今日が嘘を吐いていい日だとしても、それは有り得そうで笑えない。
「左遷じゃない。昇進だ、喜べ」
お父さんは鼻高々に偉そうにふんぞり返る。
「前任の人がね~、一身上の都合で辞めちゃったの。で、お父さんに白羽の矢が立ってね。急遽決まったから忙しくなるけど、美優ちゃんは大丈夫よね?」
うふふ、と口元を手で覆いながら、やけに弾んだトーンでお母さんは話していた。
この両親は、揃いも揃ってエイプリルフールを楽しみたいんだろうか?
いい歳した大人がそんな設定まで考えるか、普通?
「…あ~そう。それで、昇進したお父さんはどこに転勤?北海道?沖縄?どこでもいいけど特産品送ってね、期待してるから」
一応ノッてあげて、ソファーから立ち上がる。
美しく優しいと書いて美優……美しさは無くても優しさだけは、ある、つもり。
朝っぱらから面白くもない冗談に付き合わされ、朝食を摂る時間もあまりない。
「お母さん、遅刻する!ご飯!」
ダイニングテーブルに移動し、行儀は悪いが出汁巻き玉子を口に放り込んだ。
ほうれん草のお浸しにサワラの西京漬け、ちりめんじゃこと大根おろしに炊きたてのご飯。
きっと納豆と味噌汁も出てくる。
完璧なる朝ご飯。
出汁巻きを味わっているというのに、私のお腹はたちまち催促をし始めた。
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