『始動』

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朝食を誰よりも遅く食べ始めたにも関わらず、一番に食べ終えたマルは、玄関へ向かった。 休日の日課である、ジョギングをこなす為だ。 愛用のスニーカーに履き代えたマルは、外へと飛び出す。 「・・・え?」 ――脳がフリーズした。 目の前にいるのは、全身を菫色に染めた蝶。 それだけならまだ普通だが―――その大きさが尋常では無かった。 「何なんだよ、コイツは・・・・・・」 触覚から腹の先までで、マルの顔と同じだけの長さをもっている。 並の蝶などとは比べものにならないサイズであった。 「――シャンタク。かぜおこし」 ――不意に、風が吹いた。 恣意的に生み出されたそれが、巨大な蝶の燐粉をマルの体へ運んでいく。 「・・・ん?」 戸惑うマルの体内に入り込み、喉から、肺から、ゆっくり吸収されてゆく。 体内に入れなかった燐粉も、皮膚を通して浸透していく。 一定の量が吸収された瞬間、燐粉はその姿を変えた。 ――強力な誘眠効果を持つ薬物へと。 「・・・・・・・・・・・・」 音も無く地面に倒れ込むマル。 アスファルトの上で、彼は夢と戯れる事となった。
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