幼き日の出会い

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西流魂街一地区“潤林安”。 数が大きいほど治安の悪くなる流魂街の中では、最も治安のよい地域。 街の中心で行われていた市場に、一際注目された少年が歩いていた。 とはいえ、その注目というのも良いと言えるものではないのだが。 「相変わらず冷たい目だな…」 「なんでも、一緒に住んでるおばあちゃん、あいつと住んでから体調悪いみたいよ。」 「まじかよ……氷みたいだっていう噂は本当だったんだな。」 そんな、道理もくそもないような言葉。 少年の銀髪碧眼、そしてそのクールとも言える冷静沈着な性格を持っていることで、他の住民から「氷のようだ」と避けられてきた。 「(何が氷みたいだ、だよ…)」 周囲の言葉は嫌でも耳に入ってき、彼は小さく舌打ちする。 冷静な性格といえど彼はまだ幼く、そんな心ない噂は少しずつ彼の心を抉っていた。 周囲の目を避けつつ彼が向かうは、市場からは少し離れた雑木林の中にある小さな泉。 ここは他の住民は知らない、彼が最もお気に入りの、ハスの咲き乱れる場所だった。 と、思っていたのだが。 「(…誰かいる?)」 彼以外ほとんど立ち寄らないはずのこの泉の畔にうずくまる人影があった。 俯いていて顔は確認できないが、華奢な体形と艶やかな長い黒髪から同年代の少女だとは推測できた。 何も言わず立ち止まっていると、彼に気づいたのか少女が顔を上げ、こちらを見る。 「っ…………」 途端、惹き込まれた。 彼女の、どこか悲哀と憂愁を帯びた漆黒の瞳に。 長い黒髪に漆黒の瞳では地味に見えることもあるが、彼女は全くそんなことを思わせない、印象的な瞳で彼をひしと見つめた。 .
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