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「あんたさ、」
沈黙を破るように、少女が手で水をもてあそびながら口を開いた。
全く傷などない真っ白な手で透き通った水を掬う姿の綺麗さに、少年は咄嗟に目を反らす。
「死神なるの?」
さっきの言葉のときの悪戯な雰囲気を全く感じさせない淡々とした声。
どこか哀しみを帯びたその言葉に、少年は怪訝そうにもう一度少女を見た。
「どういうことだ?」
「私を育ててくれた両親は、虚の消滅に巻き込まれて死んだ。…………死神に殺されたようなものよ。」
唇を噛み締めて、少女は悔しげに言う。
「わかってるわ、逆恨みだって。死神は虚を殺して、尸魂界を守んなきゃなんない。私だって霊力持ってるんだもの。彼らを恨むことは筋違い。でも………」
そこで、少女の言葉が止まる。
両親が死んだ哀しみは、そうでもしないと抑え込めなかったのだろう。
一緒にいた自分を責めてしまうから。
あえて死神が殺したと言い聞かせなければ心が持たない。
彼女の葛藤が、目に見えてわかった。
「俺も最初は死神になるつもりなんてなかった。けど、そんな自分のエゴでばあちゃんを苦しめてんの指摘されて。自然と行くの決めてた。」
はっきりと少年が言う。
さっきまで彼の周りにゆらゆらと漂っていた、ひんやりと冷たい霊圧が凛と落ち着いたのを感じ、少女は彼が眩しいとばかりに目を細めた。
彼は、前に進んでる。
そう思った。
そして、少女は向き合う。
両親の死から逃げ、自分を守るためだけに理不尽に他人のせいにしていた弱い自分に。
今までしかと繋ぎ止めていた幻想の自分と手を放さなければ。
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