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「なら、私も今決める。自分だけ逃げてちゃ不公平だから。」
彼女の言葉に、少年がはっとしたように少女を見やれば、すました笑みを浮かべた彼女と目が合った。
「あんたに負けてらんないわ。」
また悪戯な笑みで少女が笑う。
それは、もう何かを吹っ切ったようなすっきりした笑み。
途端に顔を真っ赤にし、俯いた少年など気にもせず、少女は立ち上がった。
「そろそろ帰るかな。あんたはどうする?」
服のお尻の辺りをパンパン、と叩きながら、少女は首を傾げる。
どうする、とは一緒にここを離れるかという意味だろう。
だが悪い噂が立っている自分と共に歩いているのを見られれば、いい印象は持たれない。
少年は首を横に振った。
「俺はもう少しここにいる。」
「…そう。」
彼なりに気を遣ったつもりだったが、そう言われた彼女は少し寂しそうに目を伏せる。
まあ案の定、少年はそれには気づかないのであまり意味はないのだが。
「じゃあ、ね。」
そう言って、彼女は少年に背を向けて歩き出した。
と思いきや、何を思ったのか、「あ。」と小さく声をあげ、もう一度振り返った。
「聞いてなかった、あんたの名前。」
少年を指差して少女が笑う。
「俺…?」
自分と関わりを持たないように気を遣ったのだが、名前を聞かれては意味がない。
だがそこで教えないのもおかしい上に、少女が有無を言わせぬ感じで見つめてくるので、言わざるを得なかった。
「……日番谷、冬獅郎。」
「へぇ、冬獅郎、ね。覚えとく。霊術院で会えること、楽しみにしてるわ。」
心底楽しそうに言い、その場を離れようとする少女。
だが、今度は少年―冬獅郎が彼女を引き留める番だった。
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