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「おばちゃーん! 抹茶ちょうだーいっ!」
江戸、かぶき町。
雲一つない晴天の中、太陽が容赦なく照りつけ、蒸し暑いにも程がある。
そんななか、若干紫がかった黒髪をなびかせて、ある甘味処に入る一人の少女。
「久しぶりだねぇ、蓮ちゃん。」
店の女将に蓮、と呼ばれた彼女は、白シャツに金の縁取りを施された黒いベスト、そして黒のプリーツスカートにニーハイ。
左手には黒い上着らしきものを抱えている。
その格好を見れば、かぶき町の人間なら彼女が何者かは一目瞭然。
武装警察 真選組。
彼女は、本来なら男ばかりでムサイはずの真選組に唯一いる女隊士であり、その中で二代目参謀の肩書きを持つ九条蓮だった。
「ほれ、抹茶。ついでに団子もつけとくよ!」
そうこう彼女の素性を明かしているうちに、頼んでいた抹茶が到着。
おまけとして隣に置かれた三色団子に目を輝かせ、蓮は女将を見上げる。
「いつもありがと、おばちゃん!」
この甘味処は蓮の行きつけ。
武州から上京し、慣れない江戸で軽く迷子になっていたところを助けてもらった蓮の大好きな女将である。
心底嬉しそうに、置いてある抹茶に手を伸ばし、夏にも関わらず、温かい抹茶を喉に流し込んで行く。
そして、全く意識を向けていなかったような団子へ伸びる手を左手でがしっと掴んだ。
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