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遥か昔のとある世界のとある国にある森林に囲まれた城の中で奉先は王座に座っている白髪の男に怒鳴っていた。
「師よ! やはりあの時俺の言った通りに奴を殺しておけばこんなことにはならなかったのはないか!」
先刻、間者が慌てて戻り、仲穎が黄巾党首領・張角と結託し朝廷に反旗を翻したと言うのだ。
「奉先。たとえ君があの時彼を殺しても、どの道こうなっていたさ」
奉先に師と呼ばれた男は静かにそう言った。
「どういうことだ!」
「彼は、あの時に既に『禁術』を完成させていたからね」
「何だと!」
奉先は驚愕した。その拍子に持っていた戟を落としてしまった。カランという音が城内に響き渡る。
「どうするのだ。それでは奴に勝てないではないか!」
荒々しく言う奉先に対し男はクスリと笑ってそれを流した。
「安心しなよ奉先。手は打っておいたからさ」
「手、だと?」
「あぁそうさ。あの時、彼に両眼を持っていかれる時、彼の中に秘かに『蛟龍』を放っておいたんだよ。いずれ、『蛟龍』が『禁術』を喰らってくれるでだろうし、高蘭を黄巾党に、馬達を仲穎のもとにやり逐一情報をこちらに報告するように言い含めているからね。攻め時は誤らないはずだよ?」
師の言葉を聞いて奉先は少し安堵したようだ。
師は座より立ち上がるとゆっくりと歩き出した。両眼を失ってしまったとはいえ、普通の健全者とはなに一つ変わること無く歩いていた。
男は静かに奉先に告げた。
「奉先、悪いが仲穎のもとに行ってはくれないか?」
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