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東京にあるまじき馬鹿でかい敷地を有する古風な屋敷が龍二の自宅である。
家に着くと、龍二の父で隣接している『進藤槍道場』師範・進藤龍造と妻で副師範・進藤奈未が出迎えてくれた。彼らは二階の龍二の部屋へと入っていった。
彼ら四人は小学校からの馴染みであり、先祖が昔の中国三国時代の英雄であることもあってかすぐ仲良くなった。
四人は安徳の父で警視総監兼警察庁長官・佐々木徳篤が経営する剣道場で剣道を習い、龍二はそれに加え父のもとで槍を習っている。剣の方は徳篤の教えが巧いため、みるみると上達していき大会では連戦連勝。それは高校でも変わらなかった。
彼の部屋にはいるや、達子は机の上にある遺影に
「一兄ぃ。また来たよ」
と微笑みかけた。
遺影の主は三年前に他界した龍二の兄・進藤龍一という。彼は文武両道の、いわゆる天才であった。生前は道場の師範代を努めていて大学も超一流名門大学に首席合格。大学の剣道大会でも優勝常連でその圧倒的強さから『現代の塚原卜伝』と称されたほどであった。が、三年前、悪質な飲酒運転の交通事故に巻き込まれ帰らぬ人となってしまった。
三人は彼の部屋を訪れる度に遺影に挨拶をすることを忘れたことはない。
『一兄ぃ』とは可愛がられた三人に親しみをこめてつけられた龍一のあだ名で本人も気に入っていた
彼の部屋には龍一がよく好んで使っていた家宝が片隅に飾ってあった。名を『龍爪』というその槍はその昔、先祖が使っていた名槍であると父がいっていた。
ちなみに、もう一人この家には故人になっている龍二の姉がいるらしい。
四人はクーラーの効いた部屋でそんな思い出話に浸っていた。
「楽しそうだね」
突然知らない男の声が部屋の中から聞こえてきた。振り向くとドアの方に男が立っていた。
銀かかった白髪、白い神主風の服を着て、腰には剣を佩いて双眼を閉じているその男は、うっすら笑みを浮かべていた。一体どうやって自分達に気付かれずにこの部屋に来たのか分からなかった。
「誰だ、アンタ」
龍二が男に言うも男はただくすりと笑うだけだった。
「貴方、この世界の人間ではありませんね」
安徳が冷静に言うと、男はあははと笑いだした。
「流石劉安徳(リィゥ・アンデェ゛ァ)君。お見事」
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