鬼が戦った日

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「じゃあいらんのか?」 「新しいのよこしやがれ! 濡れちまったじゃねえか!」 「我が儘な男だな」 言いながら笑う信長に、土方はふるふると肩を震わしながら怒りを抑え込んだ。 ………それからしばらくして、蘭丸が着替えを一式揃えて現れた。 ようやく濡れた体を拭いて着替えを済ますと、土方はまったりと茶をすする信長に視線を向ける。 信長は黙って湯のみを置くと、口を開いた。 「なあ歳よ」 「………あ?」 「貴様はこの乱世をどう思う?」 いつもと違う信長の表情に、土方は黙って信長を見た。 「難しく考えなくてもいい。 時を遡った貴様から見て、今この世はどう見える?」 しばし考えるように目を瞑る土方。 急かす事もせずに信長はじっと土方を見つめている。 やがてゆっくりと目を開くと、真っ直ぐに自分を見つめる信長を見つめた。 「………答えらんねえよ」 紡がれた答えに、信長は何も応えない。
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