鬼が戦った日

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2)) ―――最悪だ…。 最初に思ったのはそれだった。 戦勝の気分に和やかに、かつ盛り上がっていた場の空気は、一瞬にして消え去っていた。 耳に聞こえてくるのは、したたかに打ちつけられる音。 繰り返されるそれに土方は我を取り戻してその手を掴んだ。 掴んだのはわずかばかり震える蘭丸の扇子を持った腕。 その瞬間、場にある全ての視線が自分に注がれたのがわかった。 と同時に、射抜くような視線も土方を襲う。 ぞくりと肌が粟立つほどの怒りを孕んだその視線の主は、怒りを抑え込んだような静かな声を発した。 「何のつもりだ?」 「見るに耐えねえ。餓鬼か、お前は」 その物言いに、誰しもが息を飲む。 怒れる信長が何をするか目に見えていたからだ。 新たに名乗り出た犠牲者に、憐れみと恐怖の入り混じった嫌な空気が淀んだ。
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