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光秀は荷をまとめ、居城である坂本城に帰還するための準備を終えた。
供は先に戻るように指示を出してある。
ふう…と息をついて、光秀は後ろにそびえる本丸を見やる。
そして断ち切りがたい想いを滲ませて、ぼんやりと揺れる灯りを見つめた。
「帰蝶姫…」
この胸に秘めたる想いを伝えておくべきだろうか。
もしかしたら伝えることで先行きが変わることもあるやもしれぬ。
そう己の中で自問自答を繰り返し、光秀は悲しみを瞳にたたえて苦笑した。
夜を迎えた安土城は山独特の冷たく澄んだ空気をまといながら、光秀を送り出す。
さわさわとゆるやかな風はくすぶる光秀を冷やすかのようにそよいでいた。
不用心ともとれる警備の少ない一本道。
松明すら焚かれてないこの道は真っ暗で…先行きの不安を見せているかに見えた。
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