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闇に紛れて姿を表したのは、まるで男のように袴を履き、髪を高く結い上げた帰蝶、その人だった。
懐かしささえ感じるその出で立ちは、美濃の国にいた時にやんちゃに走り回っていた姿そのもの。
もう四十も超えてるのに、光秀にはありし日の若く美しい帰蝶の姿となんら変わりなく眼に映っていた。
光秀の持つ提灯の明かりに照らされた帰蝶は、変わらない笑顔を光秀に向けた。
「な…何故にこのようなところに?」
「最近歳どのに稽古をつけて頂いてるのよ。
体を動かすのはやっぱり楽しいわね、ウズウズしてしまって眠れそうにないから抜け出してきちゃった」
そう言う帰蝶の口調は、慣れ親しんだゆえの軽口で、それが光秀には嬉しかった。
今や天下に一番近いと言われている信長の正室でありながらの行動に、変わらないなと苦笑する。
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