鬼が戦った日

31/32
前へ
/300ページ
次へ
ぴんと糸が張ったようなこの声で、名を呼ばれるのが好きだった。 どんな時も、決して手折れぬ花の如く、受け入れた上でしなやかに咲き誇る。 愛を知った彼女は更に美しさを増して…いつしかこうして近くにいることすら畏れ多くなってしまった。 手を伸ばせば確かに触れられる場所にいる。 けれどその腕を動かすことはしない、出来ない。 もう………後戻りするつもりはない。 「相変わらず考えてばかりね、光秀は。 たまには考えずに心のままに行動してみたらいいのに」 …無邪気な表情をして貴女は残酷な言葉を紡ぐ。 いっそ…この手に―――! 光秀の手が帰蝶にゆっくりと近付いていく。 わずかに震えた指先はきっと冷たいだろう。 温めてくれるだろうか、貴女は…。 「姫…」 「ひっじょーーーうに心苦しいが、失礼する!」
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

418人が本棚に入れています
本棚に追加