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ぴんと糸が張ったようなこの声で、名を呼ばれるのが好きだった。
どんな時も、決して手折れぬ花の如く、受け入れた上でしなやかに咲き誇る。
愛を知った彼女は更に美しさを増して…いつしかこうして近くにいることすら畏れ多くなってしまった。
手を伸ばせば確かに触れられる場所にいる。
けれどその腕を動かすことはしない、出来ない。
もう………後戻りするつもりはない。
「相変わらず考えてばかりね、光秀は。
たまには考えずに心のままに行動してみたらいいのに」
…無邪気な表情をして貴女は残酷な言葉を紡ぐ。
いっそ…この手に―――!
光秀の手が帰蝶にゆっくりと近付いていく。
わずかに震えた指先はきっと冷たいだろう。
温めてくれるだろうか、貴女は…。
「姫…」
「ひっじょーーーうに心苦しいが、失礼する!」
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