鬼が嘆いた日

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穏やかな時は流れ、やがて夕刻。 橙色の夕陽が窓の隙間から差し込んでくる。 いつの間にか日はどんどん伸びているのだな… ここに来てまだ僅かなような、何年もいたような、そんな曖昧に感じる濃い日々を思い、土方はくつりと笑った。 そして今から訪れるであろう時に、成し遂げたい思いを再度噛み締めるように拳を握った。 その拳に、そっと温かくて小さな手が重ねられる。 「…歳?」 「ん?」 「私の事は忘れてもいいから」 「は?」 「邪魔になるのだけは嫌だから」 「邪魔になんかなるかよ。 どうした、いきなり?」 「また、戦があるのでしょう…?」 小さな声。 けれど強い意思を含んだ真っ直ぐな目が、土方を見据えた。 ごまかしのきかない、澄んだ眼差し。 目を逸らす事など出来なかった。
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