418人が本棚に入れています
本棚に追加
/300ページ
6月1日―――夜。
刻々とその時は迫っていた。
それを知る唯一の男は、碁に興じる男の傍らで目を閉じてある夜の事を思い出していた。
………目に決意を灯した男のことを。
『今ならまだ間に合うのでは?』
そう問いかけた土方は、行く手を阻むように光秀の前に立った。
困ったように笑って、光秀は土方から目を逸らす。
そんな二人を帰蝶は首を傾げて見つめていた。
『姫…もうお戻り下さい。
あまり無体をしてはいけませんよ』
『私は聞いてはいけないの?』
『野暮な事を申されますな。
さ…おやすみなさいませ』
『………おやすみなさい』
優しい笑顔はいつものままなのに、やんわりとしたその言葉は確かに自分を拒んでいて…帰蝶は仕方なくその場を後にする。
視線だけでそれを見送ると、土方は無粋な真似をしたことをまず詫びた。
最初のコメントを投稿しよう!