鬼が嘆いた日

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その言葉に投げ捨てられた髷を見れば、確かに髷の先が燃えていた。 髷を立てる為に、幾重にも巻かれた紐が燃え、やがて炭と化す。 「何故毛が燃えると臭いのだろうな。 魚であればうまい匂いなのに」 「食いモンが違うからだろ―――って呑気だな、お前は本当に!」 一寸でも何故か考えてしまった自分が憎い。 そんな二人を笑うかのように、無事だった部屋の梁が、焼け落ちてきた。 飛び散る火の粉と煙に、慌てて襖を閉める。 最早猶予はない。 直にこの部屋も火に飲まれることは正に火を見るよりも明らかである。 「………八方塞がりだな」 苦虫を噛み潰すが如く吐き捨てた土方は、何か打開する手立てはないものかと頭をかいた。 信長は顎に手をやり辺りを見回す。 部屋の熱気は上がるばかりだ。
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