鬼が――た日

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何もわからないまま、喪失感だけが土方を蝕む。 その時、障子の向こうに人影が写り、ためらいがちに声がかけられた。 「悪いが今は貴方と話す余裕はねえ…」 拒絶の言葉を吐き出した土方だったが、すぐに思い直して去りかけたその男を呼び止めた。 男はすぐに部屋に入ってくる。 見ただけでフツフツと何かがこみ上げてくるのを飲み込んで、土方はその男を座らせた。 「目覚めたと聞いて…具合は如何ですか?」 「―――あんたは博識だ。史実にも詳しいだろう」 問いかけには答えず、土方は口を開く。 男―伊東は意味がわからず、首を傾げたが、ゆるりと口に弧を描いて肯定した。 「―――織田信長を知ってるか?」 「愚問です。刀を持つ者で知らない者はいないでしょう」 それがどうしたと言わんばかりに伊東は話の続きを促した。
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