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ジリリリリン ジリリリリン
今時珍しい黒電話の音が、家中に鳴り響く。
少年は滑り落ちない程度に早く階段を降りて、音の発生源である玄関前へと急いだ。
4回目のコールが鳴り終わると同時に、少年は受話器を取る。
「もしもし?」
『あ、ヒロ? あのさ、今日夕方からひま?』
「うん、とくに用事はないよ」
『じゃあさ、いっしょに祭り行こうぜ! マサトと俺と三人で!』
「祭り!? 行く! ぜったい行く!」
『決まりだな! じゃあ、いつもの公園に5時にしゅうごうで!』
「うん、分かった! ばいばい」
『またなー』
受話器を元に戻し、少年は笑顔を浮かべながら、母親のいる台所へと向かう。
築何十年という家の床がギシギシと鳴る中、少年はあと二時間後に迫った、夏休みの一大イベント、夏祭りの光景を思い浮かべた。
毎年この時期になると、近くの神社で開かれる小さな祭り。その日は近隣に住む子ども達にとって、日頃の生活とは違う雰囲気を味わえる特別な日となる。
小さい手にお小遣いを握りしめ、友達と縁日を楽しみ、小規模ながら打ち上げられる花火を眺める。
子ども達にとって、それはひと夏の思い出作りにはかかせないものであった。
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