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少年は、早くも夕飯の支度に取りかかっている母親の隣へ並び、先ほどの件を伝えた。
「お母さん! あのね、今日シュンとマサトとお祭り行くことになったんだけど、行ってもいいよね!?」
「あら、もうそんな時期だったの? いいわよ、楽しんできなさい。ただし8時までには帰ってくるのよ?」
「はーい!」
母親の了承を得ると、少年は今度は二階の自室へ向かった。
部屋に駆け込み、勉強机の一番上に長いこと置かれている、去年の夏休みの木工工作で作った貯金箱を手に取った。
取り出し口を開けて、それを逆さまにし、中に入っているお金を全て机に出してみる。
総額千六百二十四円。春くらいからコツコツと貯めてきた結果だ。ちりも積もれば山となる、というのがよく分かる。
少年は千円分の小銭だけを、自分の小さいがま口財布に入れ、机上にばらまかれた残りの小銭を、再び貯金箱へ戻した。
集合時間まではまだ時間があり、少年は今のうちに、今日の分の夏休みのワークを終わらせようと、椅子に座りテキストを広げた。
窓の外では照りつける太陽が眩しく、蝉の鳴き声が夏らしさに拍車をかける。太陽は西に傾き、少年が祭りに出かける頃には、辺りは茜色に染まり、やがて深い闇に覆われるだろう。
少年はまだ知らない。
この今日という日が今までにも、その先にも二度とない夏休みの一日となることを。
そして、運命と呼ぶには神秘すぎて、奇遇と呼ぶには物足りなさを感じるような出会いが訪れるということを。
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