夏部門 ~紗幕の向こうへ~

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†―――――――――――――† 祭り。 賑わう神社の参道では、両端に屋台が並び、焼きそば、焼きトウモロコシ、カステラ、唐揚げ、などのより一層腹を空かせるような匂いが辺りに充満している。 徐々に闇が濃くなっていく中、屋台の灯りによって照らされた神社の境内は、静まる街中でぼうっと明るみを帯びていた。 少女達は浴衣に身を包み、髪を結い上げて、いつもよりおめかしをしている。下駄をカランコロンと鳴らして、食べ歩きに夢中になっている様は、なんとも愛らしい。 そんな中、三人の少年達もまた同じように祭りを楽しんでいた。 「ヒロ! マサト! ほら、早く行かないと焼きそば売り切れちゃうぞ!」 電話をかけてきた少年、シュンは、自分の後方をゆっくりと歩く二人の友人に促した。 「そんなに急がなくても、売り切れることはないってば」 「いや! 祭りはたたかいの場なんだ! たたかいをなめちゃダメだ!」 「はいはい……」 マサトはずり落ちた眼鏡を直しながら、呆れ声で返事した。 そのやりとりをヒロは、さらにマサトの半歩後ろから眺めていた。 三人は、人の往来が激しい石畳の上を、目的地である焼きそばの屋台めがけて歩いた。 同じ年の頃の子供達も多く、何人か小学校の同級生にも会った。中には近所のおばさんや、向かいの家の大学生、はたまた行き着けの八百屋のおじさんの顔もある。
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