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「お! あったあった! おじさん、焼きそば一こちょうだい!」
「あいよ! そっちの二人もどうだい? おじさんの所の焼きそばはうまいぞー」
「いえ、僕はけっこうです……」
マサトは困った顔で応じた。
そんな中、ヒロは焼きそばを買うでもなく、おじさんに勧められるでもなく、ただ、ある一点を見つめていた。
――――――先ほどから、ずっとヒロ達のほうに向けられる視線。それは、全く見覚えのない少女のものだった。
紺色の生地に小さなピンクの花が散りばめられた、藍色の帯の浴衣をきた少女。年はヒロと同じか、一つ上くらいだろう。可憐な浴衣が闇の中に映えた。
彼女はヒロから視線を外さない。
ヒロもそれが気になり、自分から視線を逸らすことが出来ないでいた。
時間が止まってしまったように感じられた。その空間だけが、別の世界であるかのように、すっかり切り取られてしまった。
「ヒロ! 焼きそばゲットした! これで第一ミッションクリアだな!」
自分の中に、「そういえば、ここは祭りだ」という感覚が戻り、一瞬だけシュンのほうを見ると、そこには満面の笑みで焼きそばを大事そうに持つ彼の姿があった。
「……そういえばヒロ、今何か見てたみたいだけど、何かあったの?」
ヒロは観察力の鋭いマサトに訪ねられ、はっと先程少女が立っていた場所を振り返ったが、すでに人影はなくなっていた。
「…………ううん! 何でもない!」
まだ、心の中にもやもやとしたものが残っていたけれど、その存在を記憶から振り払うように、わざと明るい声で言った。
「……そっか」
マサトは妙な詮索はしまいと、話を打ち切った。
「で!? 次どこいく?」
シュンは焼きそばを三分の一以上平らげてから言った。
焼きそばだけでは、さすがに物足りない。あくまでこれは景気付けの食料だ。
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