夏部門 ~紗幕の向こうへ~

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人混みの中、ヒロは走る。身軽な動きで人と人との隙間に体をねじ込ませ、奥へ、奥へと。 ようやく辿り着いたその場所に、もちろん彼女の姿はなかった。辺りを見渡しても、それらしき人影はなく、ヒロは途方に暮れていた。 と、その時。 ……かーごーめ、かーごーめー。かーごのなーかのとーりーはー、いーついーつでーあーう……。 祭りの喧騒に混じり聞こえてきたのは、かごめかごめの童歌。その声はヒロがいる場所のさらに奥、神社の最奥からのものだった。 ヒロはその声に導かれるように、一歩、一歩と足を踏み出す。何も考えず、無心で。ただ、その歌の源に手をのばすかのように。 ……よーあーけーのばーんに、つーるとかーめがすーべったー……。 徐々に声は近くなるが、いつの間にか光が届かない程奥に来てしまっていたようだ。 この神社の最奥には、神が本当に祀られているという小さな祠がある。普段は誰も近寄ることはなく、手入れも十分には行き届いていない。 しかし、そこはヒロにとっては一種の思い出の場所であった。 昔、友人達と隠れんぼをしていて、ヒロはその祠の影に隠れていた。 ここなら見つかるまいと、ドキドキしながら鬼が来るのを待っていたが、いつまでたっても、誰かがやって来ることはなかった。 その後、さすがに怖くなり、一人で家に帰って行った。 そんな苦い思い出の場に、ヒロはまた自ずから出向こうとしている。 祠が見えた。 「……うしろのしょーめん、………………だーれだ?」 やはりあの少女だった。
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