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「それじゃー、またね」
横開きの扉をカラカラと開けて、教室を出ていく。
もう一度振り返るかな、と思ったけれど、そのまま壁の向こうに消えて、あっさりと見えなくなってしまった。
出口に向かって歩く彼の足音が、少しずつ遠ざかる。
……一人きりになった教室内は、静かで、雨の音が異様に大きく聞こえる。
またね、って……
また、こうして会うことがあるのかな。
あのおかしな「バキュン」のせいで、怒りがどこかに引っ込んでしまった気がする。
私は、胸元に置いていた手を、自分の唇に当てた。
年下からあんな風にされたキスは、初めてで。
でも、ふつふつと沸いた怒りは、あのキス自体が嫌だったんじゃなくて……
そこで考えるのをやめた。
部活に行かなくちゃ。
私は床に転がっていた鞄を手にし、すでにいなくなった穂高くんの後を追うように、急いで旧校舎を出ていった。
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