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夕食後、睦月は弥生の部屋のドアをノックした。
「どうぞ」
几帳面に整った部屋の中に足を踏み入れる。
弥生は勉強机の椅子に座っていた。
睦月は定位置であるベッドの上に腰を下ろした。
週の半分以上はこうやって、弥生の部屋を訪れる。
「今日、何かあったの?元気ないよ」
弥生の問いに、睦月はポツリ、ポツリと今日あった出来事を話し始めた。
中崎に実は恋人がいたこと、来月には結婚すること、弥生は何も言わずに聴いてくれた。
前々から、中崎に好意を持っていることは弥生に告げていた。
それを知っているから弥生は睦月の顔を心配そうに見つめる。
「大丈夫?」
自分を見つめる表情が痛々しげで、睦月は慌てて、首を縦に振る。
「うん、ショックはショックなんだけど、腹が立ったり、悲しかったりはしてないから大丈夫だよ」
そうなのだ。
弥生に言った通り、睦月は驚いてこそいるものの、怒りや悲しみと言った不快な感情は感じていない。
「本当?」
弥生が訝しげに訊ねる。
「自分でも驚いてるんだ。今はまだ思えないけど、時間が経ったら、中崎先生の結婚も心の底から『良かったね』って思える気がする」
「すごいね、睦月は」
弥生が目を細める。
「私だったら、絶対そんなこと思えない」
そう、断言する。
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