はじまり

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暗い橋の上に立っていた。 黒いスーツに黒い革靴、オールバックの黒髪に黒のサングラス。 黒づくめの格好の中で、白い手袋だけが星の光を受け怪しく光っていた。 我ながら怪しすぎる格好だ。 妖しくて、胡散臭い。私にはぴったりな形容とも言えようか。 風が頬を撫で、ふと空を見上げた。 星々が輝く夜空に、この星の衛生の光は見当たらない。 ……新月か、嫌な日だ。 時計を見るとすでに予定を大きく越えていた。 駄目だったか。 流石に、荷が勝ちすぎていたろうか。 彼は何も悪くない、わかっていながら彼のことを悪く思ってしまう自分に嫌気がする。 やはり先輩の言う通り、ターゲットに期待などすべきではないのだろう。 そして同じように、私は甘すぎるのだろうな。 帰るか。 コツ という音が耳に響いた。 まさか 音源へと顔を向けると、そこには。 肩を上下させる、少女のような少年。 彼が、いた。 真っ直ぐな眼差しで、射抜くようにこちらを見据えて。 「失礼ながら。まさか……来て下さるとは、思いませんでした」 言葉とは裏腹に嬉しがる自分がいた。 来た 来て、くれた。 「その割には、待っててくれたんですね」 痛いところをついてくる。 「まあ、私も仕事ですからね。来たということは、もういいのですか?」 嬉しい気持ちを悟られないよう本題に入る。 「ここに来た、それが答えってことにしといてください」 無理をしているのは明らかなのに、彼はそう言って笑う。 「そうですか、ではあちらの車に」 後は運転手が目的地まで連れていってくれる筈だ。 「わかりました」 一歩一歩感触を確かめる様に歩いていく。 車まで後数歩のところで立ち止まりこちらを向き 「あ、待っててくれて有り難うございます」 一瞬、言葉の意味を理解できなかった。 では、と言い残し彼は車に乗った。 小さくなるエンジン音。 今日は、いい日だ。
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